縷々

星になりたかった。

oll korrect

  スパイダーマンのような勇気はない。

  ハリーのような頭脳はない。

  バットマンのような強い拳も、ハルクみたいに屈強な身体もない。

  ロッキーみたいな努力、ディカプリオが抱いたような恋情もない。

 彼らはお伽話の向こう側にいて、僕は現実の上で横たわっていた。

  でも、現実でいる僕が、お伽にいる彼らの能力を持つ必要はなくて、ただ現実をよこたわる怠惰から、立つという勤勉さを磨けばいいだけだった。

  頭の中で、子供のころ好きだった曲が蘇る。

youtu.be

  何も知らないまま笑顔でいれた記憶の骸も、その山を蹴り崩す苦い記憶も、蛍が夜空へ運ぶ星の光となって、僕を俯瞰する。

  地面を見て歩いていた僕は、やっと見上げることを覚えて、貼られた星座を瞳に写す。

  結局、僕という人間を把握することはできなくて、生きる意味も見つけることは叶わなかったけれど、僕という個を理解すること、生きる理由を、見つけることは叶った。

  今まで書いてきた日記、ブログに住んでいた僕を読んで、痛々しいとも、懐かしいとも、万感を得た。

  僕の根っこの部分を支配しているのは「寂しさ」で、それが全てのようだ。

  生きたい、という明確な気持ちがないまま生きてきた惰性の真理も、誰にも何も引っかからないまま消えるという、寂しさが生んでいた。

  満たされないという感情も、死にたいという感情も、誰も満たしてくれないという寂しさ、死という事象が満たされない穴を埋めてくれるかもしれないという可能性を、視たものだった。

  でも最初から気付いたまま、気づかないふりをして、自分の中の惰性で生きるという行為が、何か偶像的なものによって引っ張られているものだと、現実逃避をしていたのかもしれない。受け入れる器が、認める勇気が、無かった。

  これまでの人生で、寂しさを埋めてくれた出来事はあった。

  けれどその分、僕は寂しさを抱擁してくれる温かさに酷く依存してしまう生き物になった。その重圧で温かさを潰してしまうし、一度知ってしまった温かさが忘れられなくて、物凄く弱い人間になってしまったこともあった。

  だから、戒めではないけれど、これからの人生で僕の中に眠る寂しさ、強く愛情を求める子供の涙を拭いて、一生満たさないよう、埋めないことを決めた。誰も幸せにならないことを自らするような悪目立ちはしたくない。

  だから別の見方で、死というものが「必ず」僕の寂しさを拭ってくれるという「可能性」のものじゃなく、「必然性」のものに昇華させる。

  いわば「僕」が生きた証を、「僕」という個が生きていた事実の拠をつくって、残すのだ。

  幼少時代、可愛がられていたのだろう予想はできるけれど、思い出せるのは父の暴力と、同居人のヤニ、母の謝罪だけだった。

  それらが全て、この寂しさをもとめる感情の化け物を誕生させた。

  しかし過去への憎悪はあっても、過去を拒絶はしない。あの過去がなければこの獣は誕生していなかっただろうし、獣がいなければ今の僕も存在していなかったからだ。

  

  死ぬ日を決めた。

  そしてその死ぬ日は、僕が残せたと思った日だ。

  スパイダーマンの勇気、バットマンの拳、ハルクの身体、ハリーの頭脳はなくて、ロッキーやディカプリオのような経験もしてこなかったけれど、生きる力を学んだ。正確には、その生きる力を守る方法だ。

  それは全ての出来事を予測すること。

  凡人でも、既存のものをなぞることは出来る。

  僕が「思ったこと」は僕という世界が作ったものだから、僕でも触ることが出来る。

  転ぶかもしれない、ぶつけるかもしれない、程度の話だけれど、この「かも」をもっと見渡せるものにして、深く掘っていけるものにする。するとそれは、「かも」の先の結果だけではなく、結果と今の間をつなぐ、プロセスを見る力になるし、慣れれば一つの出来事を一直線じゃなく、木から伸びる枝葉のように見ることができる達観的に観れる力に育つ。

  人と喋る時も、相手の言葉に返答するいくつかの台詞を画面に用意して、その台詞ごとの発展するであろう会話の流れを輪郭程度に把握して、またそこで都度発生するであろう言葉の選択肢、またその選択肢が引き起こす会話の道を、とどんどん展開させながら喋ると、口下手で、人付き合いが苦手な僕でも用意された原稿を読むだけの行為に変化するから、大分気楽になる。

  これを「会話」の場面だけじゃなくて、仕事、生活から自分の身振り、歩き方、話し方と様々な場面、分野で使うと、呼吸がしやすくなる。

 

 

  長い長い悪夢からようやく目を覚ましたような心地。

  惰性で生きて、妥協で歩く少年はもういない。

  痛くて痒くて、誰よりも長い思春期をようやく終えて、後ろにいる地面を見つめたままの僕の頭を撫でる。

  

 

  夜空を見ると、星々がいた。

  綺麗とは思わなかったと思う。

  けれど、青年は何かを思いながら、隣にいる少年と手を繋いでいた。

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