でんちゅう随想録

夜のような虚無が好き。

ありふれていて

 路上の草は、驟雨のしずくを弾かせる。冷えた空気は、開放的だった心に蓋するようにして広がっている。

 仕事をして、家帰って、家でも仕事をして。一息つこうとソファに座って、そのまま眠りにつく。起きたらもう朝で、急いでシャワーを浴びてまた出勤する。紙魚が歩くような日々を過ごしていてふと、糸切るような思考が墜ちてきた。

 なんのためにこんなことしてるんだ。

 別にやりがいもない仕事をして、お金を稼いで、使って、また稼いでの繰り返し。生きようと思えばお金がなくてもその日暮らしで生きることができるはずなのに、それをしないのはそれなりの暮らしを僕が求めているからだ。じゃあなんで僕はそれなりのものを欲しがっているんだろうと考えると、単純に苦しいからなんだと思う。体も洗えず、寝床もなく、食べ物も探す毎日は送りたくないという、ありふれたもの。

 そうだ、死ぬことに躊躇いはないといいつつも、いざ拷問されて死ぬのと、薬を飲んで死ぬという選択に阻まれたら後者を選ぶだろう。死はすべて等しく同じ死だと思っていないから。ここで僕が痛覚を持たない人間だったらまた話は変わってくるけれど。

 死の扉を開ける前に躊躇するのは、いつも「痛み」の存在だ。死にたがりのくせに、痛いのは嫌いという甘えからくるもので、その甘えが決めるのは僕の中の死にたいというものは結局「なんちゃって」のものなんだと。

 昨日手首をカッターで切った。その前はカミソリで。それらはしかし、死を薄くスライスするだけで切ろうと思えば包丁で好きなところを突けばいいのだが、それはできなかった。

 死にたいに対してどこまでも本気になれない自分が恥ずかしくて、床の血が僕を笑う口紅の形に広がっている気がした。

 深夜、暗闇の中でテレビを見ながら包帯を巻かれた手首をさすって、薬を飲む。

 頭の中は、笑顔の他人たち、きれいな腕をした彼ら。

 羨ましい以上の惨めさに、いつも泣いてしまう。

 誰も理解者はいなく、一人が好きで孤独が嫌いな自己嫌悪に忙しい天邪鬼な自分を、認識してはいても遠い物語のように傍観している。

 達観してる、相談すると必ず答えが返ってくる、心強い、そんなフレーズを言われることがある。

 全くそんなことはなくて、常に肥大化していくみんなの「僕」というイメージに追いつこうとするのが精一杯な弱い人間なのだ。そう叫びたくても、失望されたくないという感情から顔に着けた仮面に釘を打ってしまう。


夜な夜な夜な FULL【PV版】 高音質Ver

 真剣に1日中、死ぬかどうか延々と考えた。

 結局死ななかった。

 そんなに死にたがるくらいなら、死ねばいいのにとわかってはいるつもりなのに、生というもののなにかに縋るような心で、希望を抱く。

 ずっと胃もたれしているような体の中の重さが抜けてくれない。やけに自分の呼吸が煩く聞こえる。偏頭痛も、手首の痛みも、僕を肯定してくれる友達のように感じた。

 新幹線の殺人ニュースをみた。僕も壊れたらあんな感じになるのだろうか。

 今は優しい歌を聞いていたい。


the shes gone「想いあい 」Music Video

 夜、寂寥。

 人、希い、涙の詭弁に刃をあてる。

 ありふれた言葉が欲しい。

 僕の魂を満たす、質量21グラムの言葉が。

 けれどそれは難しいことだから、僕の世界観はいつも軋んでいる。

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