でんちゅう随想録

夜のような虚無が好き。

テールランプが僕を笑う

  雨に濡れたアスファルトの地面。街の光で見えない星の夜空。さっきまで降っていた雨に冷めた温度が戻っていくような、空気のうねりを感じながら一定間隔で置かれた電柱の横を、ネガの一コマ一コマを移動するように歩く。

  耳をイヤホンで塞いで、外から自分を隔離しても、流れてくる音楽に僕の意識は集中してくれなくて、その音楽を背景とするように一日過ごした、反省点とかを滅裂に思考する。

  内容は物語みたいに繋がってはいなくて、小さな塊が泡のように頭の中を浮遊する。あのときの言葉遣いは正しかったのか、とか仕事であのときの行動は間違っていなかったのか、とか。

  生活をしていて、暇さえあれば僕はそういうことを考える。これはもう、僕という人間に寄生してしまった生理現象のようなものだから、考えないで生きるなんてことは多分、一生できない。

  上司に功績を讃えられても、努力が少しだけ報われるようなっても、今まで不満に思っていたものに振り向いてもらっても、特別僕の心が反応することはなかった。満たされない、という感慨が近いのか、、。

  何の因果か分からないけれど、僕は人に頼られることが多い。自意識過剰と言えればそれでいいんだけど、その言葉で完結できないくらい、小さなことから大きなことまで。

  優秀なわけではないのに、何の見返りも求めない一つ返事のイエスマンな人柄の所為か、プライベートの悩み事から仕事の関係まで、うんざりする量をぜんぶ一つ返事で背負ってやっても。

  あまり考えたくはない、黒い思考が生まれてしまう。何で僕だけ、僕がやってもお前らは何も僕に与えないくせに。好感度が上がる?人らしい行い?そんな綺麗な言葉で受け止めれるほど、僕は出来た人間じゃないんだ。

  まじめに生きようとする僕の心意気を折るように、小さな日常の反抗が目立つ。しっかりとつかんだはずのスプーンを落とし、砂糖が床に散らばる。歯磨き粉を出そうと力を入れたら、勢いよく出てシンクの中に歯磨き粉の塊がおちる。割り箸を割ったら、いびつに二つになってしまい、箸として機能できなかった。シャワーのお湯が急に冷水に変わる。普通に歩いているだけなのに、靴の中に小石が入る。

 いつもは何とも思わない日常の不快が、今は僕に対する日常の攻撃にしか映っていない。ついてない、と完結できるくらいの強い心を持っていたら、もっと楽に生きることができていたのだろうか。

 彼女が吐いた言葉が、時折脳裏をよぎるようになった。

「どうして普通の人に生まれてこれなかったんだろうね」

 知らない。

 俺が知りたいよ。

 どうして自分が生まれてきたのか、何のために生きているのか。死ぬ理由はないといったけれど、別段生きる理由がないのも事実。人が生活を営むことに、理屈など存在しない、摂理、そういうものだと割り切りたくても、思春期の残滓がいまだに僕を包んで、考えても意味のないことに思慮を誘導する。

 もう少し物事をクロノシスタスのように見られれば、落ち着いて行動できるのにな。

 なんだか満たされないという感情が、延々と卓上を踊る。

 気晴らしに深夜の外をほっつき歩く。まばらな通行人、誰も乗せていないタクシー、点滅している街灯、音割れしたFMのミュージックが流れるスーパー。

 知っているものがあると、安心する。

 接客業が介護になりつつある現場を憂い。仕事を認められても何も感動しない自分を嘆き。人より肩身狭く生きていることの不満に怒り。

 人生を積み重ねていくこの工程、終了の過程に少し疲れてきたのかもしれない。

 寂しいだけなのかもしれない。人恋しいのかもしれない。純粋に、今は誰かに抱擁されたい。

 若者にとっては花のゴールデンウィーク、僕にとっては地獄の大型連休をようやく終えて、なにも喋らない部屋の天井を眺める。

 目が覚めたらきっと、いつも通りの天井が僕を出迎えてくれるのだ。

  大事MANブラザーズバンドのそれが大事、が小さく僕の体の中に流れている気がした。f:id:ryunyan123:20180506162601j:image