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星になりたかった。

騎士

「どうして普通の人に生まれてこれなかったんだろうね」

 この問いに対して僕は、何も答えることができなかった。

 正しくは、答えたるものを僕は持っていなかったのだ。

 ただ、僕らの横を通り過ぎていく人たちと同じように、普通の生活を送る。それがなかなかどうして、難しい。そしてそれは僕よりも、彼女が一層窮屈に生きている。

 適応障害発達障害摂食障害。いろいろな障害を持っていると診断され、家族からもあまり理解は得られていない、完璧主義をこじらせてしまっている彼女は、レディースデーのように、定期的に墜ちてしまうときがある。

 職場に出ても、体が動けなくて動悸が激しくなり、震えが止まらなくなってしまう。

 自律神経が壊れてしまって、全く体が言うことを利かなくなる。寝ても寝ても、眠気が取れなくて、いよいよ過食する体力も減少する。

 毎回彼女が苦悩するのは、この定期的に訪れる疾患の原因が、全くわからないという点だ。軽々しく、見えないストレスが蓄積してそうなっちゃったんじゃないとは言えない。それこそ、「知ったような口」は彼女の前では御法度だし、その見えないというところが問題視しているのだから。

 だから毎回僕ができることといえば、彼女との会話の中で、心の負荷となっているであろうものを探して、少しだけストレスの原因を明確化して、「何の理由もなく墜ちている」という彼女の仲に籠城している自己嫌悪を和らげることぐらい。

 彼女もなりたくてああなっているわけではないから、その分巨大な自己嫌悪と罪悪感が巡っている。彼女が職場に出られなくなるたびに、そこで勤務する人たちに迷惑をかけている。だかたできるだけ、彼女の空いた枠の分を、僕だけで補うようにして、「職場の人に迷惑をかけている」という罪悪感を、「僕に迷惑をかけている」という、罪悪感の規模を縮小させるよう試みたり。

 あとは彼女の送迎をするぐらいで、ほかは僕という一個人の人間にはできないのだ。経済的に支えることも、将来を約束することも、今の僕にはできない。

 だから上記のような行いをしても、これを僕は支えていると思っていないし、強い無力さに毎回、歯がゆく、のどをかきむしりたくなる悔しさにかられる。

 でもこれを彼女は、僕に頼っているととらえてしまい、強い自己嫌悪につなげてしまうのもまた事実。だから腫物のように触るのも、かといって冷たくあしらうこともできず。

 今までにいろいろな、行き違いや勘違いが横行し、たびたび僕と彼女の間に亀裂が入っては埋め、割れては修復し、というのを経て今は、やはり最初の気持ちは消えずに咲いていた。「支えたい」という、忠誠にも似た心持。

youtu.be

 過去に、僕は救いたいという女性がいた。しかしその女性は結局、僕に何も言わず、縄を首に縛って逝った。

 当時の救えなかった、という悔しさ、後悔が火となって僕の背中を炙る。

 しかし贖罪の行為だとは僕は思っていない。次こそは、同じような終わりにさせない。

 彼女は記憶の彼方で忘れてしまっているだろう、あの約束を果たすために。

 今日もまた、重たい玄関の扉を開ける。