縷々

星になりたかった。

窓外の日常

 僕は飲食店で勤務している。1日の中でいろいろなお客さんを見て、今までも多様な方々を目の記憶に収めてきましたが、その中でも印象的だった人が1人。

 夜の8時過ぎごろだっただろうか。ディナーのピークも超えて、店内が喧騒の残滓に包まれていたころ、冬空の外から少女が1人、来店した。

 少女、といってもそれは本当に「少女」という形で、目で見ても明らかに、小学4年生前後であっただろうか。ランドセルは背負っていない。カーキの糸ほつれが目立つリュックサックを背負って、温度差に肌を赤くしていた。

 持ち帰りで、弁当を一つ。財布も持っていないようで、古着っぽいコートのポケットから500円玉を取り出した。

 弁当を作りながら、店内のベンチ椅子に座って待つその少女をちらちらと観察してみた。全体的な容貌としては、背中まで伸びるロングヘアが特徴的。しかし失礼だけど、その長髪もあまり整えられているという様子はなくて、伸びっぱなしのものを放置した、みたいな感じの状態だった。よく見れば小学生らしくない、「薄汚れている」ふうに僕は受け取ってしまった。そして必然、そんな少女を見てしまえばあらぬ憶測が頭の中を飛び交ってしまいます。

 虐待とか、育児放棄とか、両親が不慮の事故でその子一人だけで生きているとか、好き勝手にその子の人生を想像します。

 しかしどう頑張ったところで、違う人の人生、違う少女の日常。

 こちらが同情しても、向こうの不満が改善されることはないし、かといって行動に移したとして、あっちが望む結果につながる可能性はないし、むしろ悪い方向に反映されてしまうかもしれない。

 だから思うだけで、終わる。たとえばショッピングモールを一人で歩いている子供を見ると、迷子と思ってしまい、つい手を引いてしまうけれど、実は近くに親がいて、はたから見て「怪しい人」として映ってしまうみたいなことが何回もあった。

 「憤り」とか「ふがいない」までは正直思考しない。ただ「なにもできない」という事実をかみしめるだけ。

 だからここで自分が彼女のためにできることは、今作っているこの弁当を、精いっぱいに作ってあげることだけなのだ。エゴだけれど、マニュアルよりも少し多めにお米とおかずを増やして、袋に入れる。

 まだ寒い月日なのにマフラーもしていない少女に弁当を持っていく。

「おまたせいたしました、お持ち帰りでお待ちのお客様」

 僕の声に反応して、少女は椅子から立ち上がってその袋を受け取った。終始真顔で、暗い表情を浮かべていた少女だけれど、受け取ったときに一瞬だけ、

「ありがとうございます」

 と、小さく口を綻ばせた。

 ただの感謝の言葉だけなのに、不思議とその言葉と発声された声から、稚拙のある人間性を感じました。

 店のドアを出る小さな背中を静かに見送って、キッチンに戻る。

 今彼女はどうしているだろうか。生きているのだろうか。

 名前も知らない、素性もわからない女の子だったけれど、おそらく一生忘れられないお客様だ。

 布団の中で、時折少女のことを思い出す。一瞬だけ見せた笑顔と、寂しそうな背中。

 ただただ、かわいそうという感情だけなんだけど、ちょびっとだけ泣いてしまう。

 加湿器の蒸気が、僕の顔を撫でる。

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